187 不死鳥と硝子座プロデュース『バーレスクの予知夢』
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世話人 バレンス が見物にきました。
【見】 世話人 バレンス
“どうしてあの塀は超えちゃいけないの？”
“なぜ金曜日の飴玉はいつも甘いの？”
“セリーヌとアレクシスはどんな家へ行ったの？”
疑問を抱くな。口にするな。
此処で少しでも長く『幸福に』過ごしたいのなら。
【見】 世話人 バレンス
──セレスティアル孤児院
[木陰で午睡を貪っていた。
思い思いの手法で戯れる子どもたちの声を聞きながら。
柔らかな木漏れ日のカーテンを黒い頭が遮る。
重い瞼を上げるよりも早く揺り起こされる。]
……もうおやつ時ってか？
わかったよ。
【見】 世話人 バレンス
[白い服を着た子どもたちがどんどん手を繋ぎ連なる。
その中心に自分も加えられる。
そうやって部屋に戻って、全員が手を洗ったらデザートが出てくる頃合だ。]
[疑問なら幾らでもあったんだ。
夏が近付くにつれ、この匂いは一層濃くなる。
入ってくる子も“貰われていく”子もここ数年で倍以上に増えた。
みんな何処か懐かしい匂いがして、誰も親の事は覚えてない。
自分が二十数年前、此処へ来た時とまるで同じ状況。]
【見】 世話人 バレンス
[貰われていく子達の行先を俺は知らない。
知っちゃならないと言いつけられている。
……だけど、幾ら見捨てられた地区だからと言って
何故こうも孤児は増え続ける一方なのか。
この『平穏と停滞を約束された』筈の国で。
また、彼等の行先は一体何処であるのか。
ろくなモンじゃねえ、って事だけは想像がついてた。
俺は空を見上げる。
────あの国の飛行船がまた一機、飛び去っていく。]*
【見】 世話人 バレンス
「アレは原点にして最高傑作だ。
漸く最終段階に移行できる」
「発展を前にした命がどれ程
軽いのかをアレに教えてやれ」
【見】 世話人 バレンス
[幼子たちは雑魚寝の時間だ。
遊び疲れ、食べ疲れた口元を拭ってやり、部屋中に薄い布団を敷く。窓から入り込む乾いた風は心地好く、うっかり転がれば子どもたちよりも早く寝付いてしまいそう。
それを見透かしてか、一人に袖を引かれる。]
俺はいい。だって……
寝返りで……
潰しちゃうかもよ〜〜っ！？
[両腕を振り上げて思い切り脅かす。
きゃはきゃはと笑いながら枕に縋るようにして逃げる子どもたちのなんと愛おしいことか。
明かりを消し、おやすみと告げてから交代要員の待つ部屋へ向かった。]
【見】 世話人 バレンス
[バックルームの机の前に腰掛け、短い休憩時間を得る。
昼餉は殆ど子どもたちに分け与えてしまったから、腹の虫がまるで鳴き止んでくれない。
手遊びのように、引き出しに昨日仕舞い込んだ封筒を見遣る。
「貴方宛てよ。行ってきたら？」
差出人不明のやけに豪華な封筒。
この孤児院では無縁のもののはずだった。
蝋封を開いた中に差し込まれていた劇場のチケット。開演は間近。
手渡されるよりも前から、周囲が融通を効かせて時間を作ってくれていたのを知っている。他に予定がある訳でもないし、感想を是非聞かせてくれとせがまれている以上……行かないという選択肢は実質、なかった。
同じ引き出しから車のキーを持ち出す。]
【見】 世話人 バレンス
[だから、柄にもなく一張羅を着て、さ。
ネクタイまで締めて、帽子を浅めに被った。
今日の仕事が終わる頃、孤児院をひっそりと出て。
子どもたちを起こさない様に繁華街へと向かった。
黄昏の色したサーカステントは俺が物心つく前から同じ場所に建ってこそいるが、当然ながら入ったことなんてない。
会員制という噂だけが職場を出歩いているような場所。見窄らしい地区の人間が立ち入るような劇場ではないのだ。
【見】 世話人 バレンス
[夜目が効く体質で良かった。
まず第一にそう思った。
薄暗い劇場内は座席も入り組んでおり、油断も隙もありゃしない！
チケットの番号に促されるままに“客席”に着いた。
周囲には各々を“参加者”と呼び合う得体の知れない面々までいる。
参加……一体何の事だ？
それにしてもこんな暗闇で動き回って立ち話をするなんて、酔狂な奴が居たものだ。
それ以上に、直感が告げていた。
丸腰で来たことを後悔する事になる────と。
座席には浅く腰掛けて、耳を傍立てたまま何も知らない振りをした。
まだ銀幕の上がらぬ舞台を静かに見据える。ただ今は。**]
【見】 世話人 バレンス
[どうしようもなく目を凝らしていた。
何もせずに構え続けるというのもなかなか神経の擦り切れる所業だ。
その内自然と周囲の話し声の内容が深く頭に入るようになり……それからふと、アンケート>>63の話題を耳にした。万年筆を取り出す。
■普段なにをされていますか？
孤児院で身寄りのない子供たちのお世話をしております。24区は治安的にも余り恵まれていない地域ですが、逞しく健やかに育つ子供たちの姿に大人が逆に学ばさ<省略>
■この劇場に来た理由はなんですか？
兼ねてより芸術分野に興味はあれど触れられる機会がなかったのですが、今回幸運にも会員である知人からチケットを譲り受けました。お恥ずかしながら<省略>
■意気込みを一言！
子供たちにも実りのある授業が出来るように<省略>
……それらしい書類を作るのには慣れたものである。*]
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