[民家の方へ向かおうとする佐田>>209の手を、引き留める。これは暖かい人の手だ。
あの手は、こういうあたたかさを求めている。]
待って。
……民家の裏に、小さな、社があったの。その根元に穴があって、声がしたのよ。
穴の中に、誰かがいたわ。
だから私、手を差し伸べたの。
相手は私の手を握った。
けれども、その手は冷え切ってた。
私は医者なの。あの冷たさ、硬さ――間違いなく、生者の手じゃないって断言できる。
あれ≠ヘ助けを求めている。危ないわ、引っ張られるかもしれない。行かないで。
[必死に訴えるものの、周囲の霧は深くなっていく。掴んでいるはずの手も曖昧だ。気付けばその手も放しているかもしれない。]**