ー佐田春陽・民家方面へー
[蛍火のような明かりを頼りに、てくてくと二人歩く。
近づけば近づくほど、柔らかな明かりは暖かさを持っているように感じた。
民家の中を覗き込めば、三人の姿。
知らない男性、知らない幼女、そして見知った老婦人の姿。
彼らは帰るのだ、在るべきところへ、帰るべき場所へ。
この他に、暖かな光が見えなかったのは悲しいことだけれど。
それでもここに、三人の生きた人間がいるのは嬉しかった。
私は唯一知っている捨丸さんの側に近づき、声をかけた。]
さようなら。どうかご無事で。皆さんと共に生きてください。
[その一言が、届くかは分からなかったけれど。
その一言を言えたことで、すっと心残りが消えた気がした。*]