[「――願ってくれてありがとう。夜の方は、大丈夫。霧のほとんどを持って行ってくれた子がいるから、お願いしなくても、もう時間は動いてる」
そんな声が聞こえた。そうして、声はもう1人へも、言葉を紡ぐ。
「――見届けびとさんもありがとう。聞こえているかは分からないけど、もしも、あの子を忘れたくなければ、血を1滴もらうといいよ。縁の細い貴方なら、それで十分覚えていられる」
聞こえているかも分からないし、たとえ聞こえていたとしても、こんな場で出会った見知らぬ子供を記憶に留める必要はないだろう。けれど、止めずにいてくれた礼代わり。選択肢として、それだけ告げて、風は収まり、鏡に映る景色も元に戻る。
後に残るは生者が2人]*