ー移動・病院から山へー
[百千鳥さんと一緒に病院を後にして、私は覚えのある道を歩く。
病院から山沿いに続く道、私が何度も歩いた、実家への帰り道。
百千鳥さんは取材のために来ているのだから、土地勘のあるはずもないだろう。
暗いし、山の中の村なのだから、野生動物が出るかもしれない。
だから、私が彼女を先導しなくてはならないのだ。
長らく離れていたとしても、この土地の人間なのだから。
そう思い、そう努めようと、実家を過ぎて、山へと続く道にさしかかり、ライトを照らしながら歩く間も考えて。
しっかりしようと思うのに、私の頭の中には、先ほど聞こえた言葉がぐるぐると巡っていた。>>79
私を待っていた。今まで、ではなく。
今も、ずっと
…さくさくと、山道に響く土を踏む足音。
私と百千鳥さんと、確かに二人分の足音しかしないのに。
どうしてだか、他にも人がいるような、そんな奇妙な気分がした。]