苦笑する己の眼前にある出文机、には
何枚もの白の原稿用紙と使い込まれた万年筆
そして木彫りの写真立てで飾られた色褪せた写真が
無造作に、置かれていた
最初に筆をとったときには、
浮島のように頭に浮かぶ数々のものを繋ぎ合わせ
文字に起こすことができたものだが。
寄る年波に勝てないのか。或いは、
己が心躍るようなものを作り出すことに限界を感じたか。
或いは。
妻亡きあと、男手1つで育てた娘が先日。
好いた相手のもとへ巣立ったが故の、虚無感か。
蓄えはあった
このまま書けずとも、方々の劇場や出版社に
脚本や小説を卸してきた今迄の実績
慎ましく生活していたならばもう筆をとる必要はない