[神子様が祀られているだろう本殿に足を向ければ、倒れている女性を見つける。なみが花束を取り落とす音がした。>>+36
彼女が疑問を呈したのとほぼ同じくして、女も同じ事を口にしていた。]
どうして。
[それはカナだった。女は倒れている彼女に近づいた。
傍らに膝をついて、顔を覗き込む。彼女と別れたときのことを思い出した。大丈夫と、確かにそう言っていたのに。>>5:41
本当は分かっている。彼女がもう、息をしていないこと。
彼女がもう現世の存在ではなくなってしまったこと。
女は言い知れぬ苦痛を感じた。何もかもがバラバラになるような心地がした。
姉との約束も一度は果たされなかった。
誰かとの約束を果たす前に死んでしまった。
無駄な犠牲を出さないと宣って、結局護り切ることはできなかった。
女はいつも、いつも、約束を守れない。何も護ることなどできないのだ。
できないことは最初から約束しなければいいのに、どうしてだか口をついて出てしまう。
他者と約束を交わすことが空白を埋める方法なのだと信じていた。守れない分、空白が増えるのだと、今になって気づいた。]