34 【G16編成】戻り橋の向こう【立ち合い不要】
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【独】 狛狐 朱
>>-239
花火は嫌いだ。
星の光には到底及ばないけれど。高所から眺める穏やかな街の明かりは嫌いではないけれど。
空を覆い隠すようなあの光を見ると、嫌なものを思い出してしまう。
……ママが泣いている所を見たのは、後にも先にもあの時だけだ。
――みんなで手をつないで。
大丈夫。かみさまは見ているわ。
大丈夫。いつものように目を閉じて、お祈りするのよ。明日は今日よりも素敵なことがたくさんあるわ。
朝には何が食べたい？
どのご本を読んでほしい？
全部叶えてあげる。特別よ。
だから今は。
……ごめんなさい。こうすることしかできない私を、どうか許して。
【見】 一ツ目龍 モクレン
[──永いこと、生きてきた。
千年、弐千年、参千年………。
他の生き物が絶え、生まれ、絶え、
また生まれる命の流れのその中で、
また同胞の龍たちが次々と絶え、絶え、
また絶えゆくその中で、
どうして己だけがこの世から絶えぬ？]
【見】 一ツ目龍 モクレン
[人間に乞われ、水害を鎮めるため、
気付いた時に己達は既に存在していた。
人間と同胞の水龍と共に、
飽くほどの時を生きて来た。
崇められ畏れられ生きて来た。
求められ助けて生きて来た。]
【見】 一ツ目龍 モクレン
[……だが、
人間たちは水害を防ぐ技術を得、
己たちは無用の長物となった。
崇められねば力は生まれぬ。
畏れられねば存在は失せる。]
【見】 一ツ目龍 モクレン
[一人、また一人と、
同胞たちの消滅するなか、
………己も虚しく、
“その時”が来るのを
漫然と、ただ漫然と、待ちつつ、
世の流れを見守ることにした。]
【見】 一ツ目龍 モクレン
[──この数日の間の
人狼たちの起こした騒動の終始は、
久方ぶりに己の興をそそった。
それに満足した己は、
上機嫌に口笛を吹きながら、
涼しい風を受けて
京の細道を往く。
どこかで一杯あおろうかと、
そんな事を思いながら。]
【見】 一ツ目龍 モクレン
──『もし、花は、花は要りませんか？』
[道々、
不意に何者かに袖を引かれ、振り返ると、
みすぼらしい服装をした、
小娘の花売りが一人。
何時もの己なら、
水を差されたと一顧だにせず、
手を振り払っていただろう。]
【見】 一ツ目龍 モクレン
[けれど、
その花売りの籠に束ねてある、
どこかそこだけほんのりと明るく、
月を照り返すような花が、
……己の眼に留まって、
……柄にもなく──、]
【見】 一ツ目龍 モクレン
──ああ、買おうか。
[袂から銭を出し、花売りに渡す。
花を受け取ると、一つ笑う。
それから、
くるり、踵を返した。]
【見】 一ツ目龍 モクレン
[──永く生きていれば様々な事がある。
しかしそのほとんどは
永い時の流れの中で心の中に埋もれ、
堆積し、失われる。
しかしその中でも到底忘れ得ぬ
あの出来事……。]
【見】 一ツ目龍 モクレン
[一瞬の強烈な光と共に
己の左の眼が最後に見たのは……
──思い出したくもない……。
思い出したくもないのに、
どうしてだろうな、
あの狛狐を見ていると、
……己の失われた此の左眼が、
ジリジリとした感じがする。]
【見】 一ツ目龍 モクレン
[──先ほど渡った橋。
戻り橋なんてよく言ったものだ、と
くっくと笑いながら元来た方へと渡り、
先刻までいたあの狛狐を探す。
先ほどまでどこかで打ち上げられていた
花火が止んだ。
辺りは一層静まり帰るなか、
探していた、
山吹色の髪をした
その姿を見つけたなら、]
【見】 一ツ目龍 モクレン
よう、さっき花売りに遇ったんでね。
戻って来たんだ。
お祝い的なやつだな。
これは“君たち”、に。
[そういって差し出したのは
赤、白、ピンク、紫、
とりどりの色のグラジオラスの花束。]
………花言葉は、勝利。
[きっぱりとした口調で、
にっと笑って言葉を付け足す。]
【見】 一ツ目龍 モクレン
……そして、これは、なんというか、
……上手くは言えないが、
……まあいい。こっちの花も、受け取ってくれ。
[そ、とその花束の上に、
押し付けるように置いたのは、
夜の闇のなか仄かに黄色く浮かぶ
金盞花、一輪。]
【見】 一ツ目龍 モクレン
……花言葉は、『慈愛』、だったか。
……“朱”もたまには笑顔になれるといいな。
……この花みたいに、
……黄色く、咲くように、……いっぱいに。
[ぽつり、と洩らすような言葉を。
その髪色を思い起こさせるような
この花を、
占いの時にふっと見せる
どこか哀しそうな顔を
思い起こさせるようなこの花を、
どうしてかわからないけれど、
“君に”渡したくなったんだ。]**
【見】 【独】 一ツ目龍 モクレン
どちらも朱に渡したつもりなんだが
グラジオラスは“僕たち”を含む朱に、
金盞花は、なんというか、
……上手く言葉にできない。
まあ、いいか。**
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