[さて、おでんの容器から糸こんにゃくを箸で器用に取り出し、ふちに付けられていたからしを少しだけ付けて口に運ぶ。
半分食べた後ラガーを一口。]
美味しい。
これは、忘れられないね。
[例えばきっと、国に戻ったある冬の日、温かい食べ物で身体を温めて一口ビールを飲んだ時、いつもとは言わないが、どれくらいかの確率で自分は今日の今この時のことを思い出すだろう。
そうしたら、きっとそれに手繰り寄せられるように、うどんのこと、酒のこと、魚のこと、そしてこの街の色んな場所と人々の事を思い出すのだ。
思い出は、時に辛かったり切なかったりもするけれど、本当に素敵なものだ。]
ふふ、大事に食べないと、だね。
[残った半分の糸こんにゃくを、口に運ぶ。
残された半日でなお、この街の良い思い出は、まだまだ作ることが出来そうだ。
まだ湯気が少し出ているおでんの器に、触れると温かい焼き芋の包まれた新聞紙。
そして午後の陽の光に照らされたビールを見て、にやりとひとつ、微笑んだ。]**