33 終末文庫プロデュース「トワイライト・リライト」
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世良健人
しばらく考え込む時間を経て、同じ形をした唇が××県の方、と答えを紡ぐ。全くの別方向だ。気候も見どころも違うし、きっと自分とは全く違う楽しみ方をするのだろう。そんなことを考える。たとえば事前学習に真面目に取り組み現地で見聞を深めるだとか。反対に、徹夜で級友と騒ぎ翌朝はぐったりしているだとか。楽しみだなぁ。うん。俺も楽しみ。土産何が欲しい。
首を振る。要らないよ、あにき、要らない。
世良風磨
────
エンドロールが流れる。感想はその間に零すのが通例だった。むしろそのタイミングしかなかった。一方はヒロインの端正な所作に見惚れ、噎せ返るような潮の匂いを映像だけで感じ取ってほうと息を吐き、一方は、報われないと分かっていて主人公に逢いに来たヒロインの執着と、どうしようもないやりきれなさに唇を真一文字に結んでいた。
最後に監督の名前が中央に表示さればこの映画は終わりだ。その文字列を機械的に視界に映してレコーダーとテレビの電源を切った。
────真っ黒な画面に人影が映る、この瞬間がどうしても。
世良風磨
映画を観ることが好きだ。その間は別の世界にいられるからだ。好みの差異はあれど、語れる程度の知識を持てど、何でもいいという根本は変わる気がしなかった。
瞼を伏せ脱力したように体重を右横に倒せば、何の抵抗もなく身体はソファに落ちる。
視界に揺れる赤髪を映す。ローテーブルには透明なグラスとプラスチックのカップ。
兄はもう眠ったようだ。意味もなく欠伸を噛み殺せば眼に薄膜が張る。ゆっくり立ち上がり、連れ立って寝床へ向かった。*
マージナル 尾関春歌 が見物にきました。
【見】 マージナル 尾関春歌
外れたイヤホンジャックと漏れ出す甲高いアニメボイス、
くすくす違う制服の笑い声、恥ずい、無限に恥ずい……！
消したい、きいちゃった奴みんな！
見回して、まわりに同じ制服がいなくてほっとして/繋ぎなおして/あわてて下げた音量をゼロからヨンへ。
修学旅行……朝からこ、こんなんで、だいじょうぶかな……？？
【見】 マージナル 尾関春歌
さいごの旅を、何ごともなく楽しく過ごしたいだけなんだけど
そうならなかったらどうなっちゃうんだ、クラスメイトの諸君！*
世良風磨
--
[旅行の日がやってきた。
身支度を済ませ、ボストンバッグを担いで廊下をどたどたと歩く。父の部屋の扉をノックして、返事も待たずに開け出発の旨を伝えれば部屋の奥で手を合わせていた父はすぐに入り口までやってきて「気を付けて」と笑う。
靴を履いて家を出る。「いってらっしゃい」と見送る母の背後で、兄がひらひらと手を振っていた。]*
世良健人が村を出て行きました。
世良風磨が村を出て行きました。
5人目、 世良風磨 がやってきました。
世良風磨
はよーーーっす！！！！
[荻野目の背中に軽く体当たりをしてやった！]
えっ、全然来てないじゃん！ うそ！
俺結構ゆっくり来たつもりだったのに！
なんか急に感慨深くなっちゃってさ、駅の写真とか、バス停に咲いてた花の写真とか撮ってたんだよな。
津崎見る？
こういうのエモいって言うんだっけ。上手く言えねーけど、分かるよ。
なにそれ飴ちゃん？ 俺にもちょうだい、くださいセンセイ！
かわりポッキーあげるからさー！
でも1本で勘弁しテ。
[げらげら。楽しみにしていた旅行の待ち合わせ場所について、早速テンションは高い。]
6人目、 猫村雪之丞 がやってきました。
猫村雪之丞
［チータラ。さきいか。鮭とば。
ドロップ。キャンディ。ロリポップ。
カバンがパンパンでも苦なものか。
駅の周りを、構内を、てくてくちょろちょろ歩き回る。］
あれ美味しそうだな！
あ、あれも！これも！
こっちも気になる！
［……出発する前に小遣い使い切るのでは……？
などという危惧は頭の中には無い。
電車で、旅先で、宿泊先でどんなことをしようか。
考え始めたらそれぞれに合ったお供が欲しくなるというもの。
クラスメイトの嬉しそうな顔、楽しげな表情が見たくなるもの。
…………中身がいっぱいに詰まった紙袋(大)、いっちょうあがり。］
猫村雪之丞
△△口〜、△△口〜。
どこだ〜。
［スニーカーの足音をころすどころか響かせて目的地を探す。
…………実のところ。
本人が気づいていないうちに数回往復でスルーしているのだけど。］
んーーーーーー……おっ！！
［見慣れた姿が見えるなりロックオン！
紙袋で塞がった両手は当たらないように。］
世良っちょ！！！！
［その背中目掛けて、飛びついた。］
7人目、 放課後の猫 三國萌々子 がやってきました。
放課後の猫 三國萌々子
シューガクリョコーね、シューガクリョコー。
マジで高校生活の終わりを感じるわ。
［集合地点は目と鼻の先。
すでに集まっているメンツに気付かれないように、柱の影から覗き見る。］
もうちょいかなー。
［スマホで駅構内図を検索し、周囲の店をチェックする。
集合地点から少し離れたところにあるコーヒーショップに目を止めた。］
お、ちょうど良さそー。
フラペ買ってこよ。
［——集合より早めに合流とか、キャラじゃないんだよねー。
修学旅行をそれなりに楽しみにしている自分を誰かに気取られたくもない。
もう少し人数が集まるまでの時間潰しと、集合地点を背に歩き始める。］
8人目、 見習rapper ケンドリック がやってきました。
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