故意ではなかったのかもしれない。母は目の前に双子がいるのだと心の底から信じ切っているのだろう。息子は兄/弟と暮らしているように振舞い、会話をし、共に食事を取り、級友に喧嘩をしただのなんだのと愚痴をこぼし、時には兄と弟を切り替え生活している。しかし気が付いている。共に生きてきたその人間は実のない影だ。母と己の中にのみ存在している虚像を模倣して投影しているだけだ。それでも頭の中にいる彼を心の底から愛している。ただ一人の理解者として。