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結果、“兄”は死亡。その現実を受け入れることができなかった母親の手により残った“弟”は「双子のように」育てられた。父親は息子を一人の人間として扱うものの、妻を狂わせてしまった罪悪感に苛まれその育て方に手出しできないままでいる。
しかし父親は息子のいない所で、何度も母親の認識を正そうとした。しかしその度に暴れたり、死のうとされたりしたため止められなかった。結果、妻のいるところでは妻の言動に合わせるようになった。ただ一点の異常に目を瞑れば、至って平和で金銭的にも余裕のある穏やかな家庭だからだ。
兄の仏壇は父の部屋に置かれ、母子が父の部屋に立ち入ることはない。
しかし犠牲になったのは息子である。虚像を脳内に抱え、かつ二重人格のようになってしまった。姿のない兄と言葉を交わし、兄の言動を再現し、時には“兄”の年相応の姿、として振舞うこともあった。
それを見た父親は息子を自室に招き入れ真実を話したが、自覚の有無には波がある。分かっているけどやめられない。兄がこの世に存在していないことを理解しつつも、共に育ち「母と自分だけに」見えている兄のことを無視することができず、自分に足りないものすべてを持ったその存在を愛し、縋っている。しかし自分に足りないものすべて、というのも歪んだ認識である。なぜなら、人は往々にして相反する性質を併せ持つ生き物だからだ。