——1N005Q地区、天気晴れ、気圧1012、問題なし、メーデーは継続中。——
機械から天候を告げる音がした。
小さな木造の事務所の中に2人の男女がいる。事務所いっぱいに広がる机の半分には大量の何かが書かれた紙が無造作に積みあがっていた。窓の外の青空。くたびれた壁や柱の茶色、書類の白。せわしなさと怠惰を告げる真夏の下だった。
「だから、紙でこんなに纏めてもしょうがないんだって!紙を無駄にして……、私の話聞いてた!?」
「……紙くらいいいだろ、どうせ世界が滅ぶんだしエコじゃなくても」
「そっちじゃなくて、でしょ!」
女が持つ籠には大量の石板がある。
「はいはい、聞いてませんでした。なんで紙じゃ駄目なんだっけ」
「紙は転写できるからよ。技術が失われてもみんな紙の利便性は知っているから一番最初に復活する技術になると推測されているわ。」
それならなおさら紙でいいじゃん。そんなことをいう気力は夏が奪っていた。