[男が最初に酔狂な趣味に目覚めたのは、彼の故郷にわずかに残された"塩の遺跡"がきっかけだった。地表面が塩化ナトリウムを主とする結晶で覆われた地域のほど近くで生まれ育ち、直ぐ側にありながらこの奇妙な遺跡に興味を持つ者がだれもいないことを心の底から不思議に思っていた。明らかに人工の痕跡。懐古趣味が伺える彫刻からは生活よりも芸術の趣が強く感ぜられた。けれど、だからこそ、そこに住まう人々の暮らしには根付かなかった。それはあくまでも取り残された古い趣味だった。]