写真を撮ったあと、話しかけてきた彼>>16に、小さく頷きはした。
「でも、しっくりこなかっただけ」とささやくように返事もしたとは思う。
──思えば教室にいた彼らと言葉を交わしてきたことは多くはなかった。
それは自分にとってはキャンバスに写し取る「光景」の一つであって、内側に入るものではなかったからだ。
セカイはいつでも外側にあって、それらを何枚も何枚もスケッチブックに描き出して留めてきた。
そうしなければ、時は無常に過ぎ去っていってしまうから。
あるいは、周囲から見て自分という人間は存在していないに等しいものだったかもしれない。
いずれ忘れ去られていくだろう、この学校のように。
そんなことを思っていたら、勢いよく呼び掛けてきた声>>32に、驚いて瞬くだけで返事を忘れてしまっていた。
彼の興味はすぐ教師の持つ菓子類へと吸われていってしまったけれど。
ちらつかされた写真、が気にならないわけではないけれど、言い出すタイミングも何もかも逃して、また手元のスマートフォンの画面へと視線を落として。