───やっと、結婚してくれるって!
[安っぽい指輪を左手の小指に光らせながら
夏の暑い昼下がりに女が言った
だらしなくはだけたノースリーブのまま
女の腕の傷は手首から両肩にまで達していた]
よかったね、今度こそ幸せになれるといいね
[その言葉を口にするのも何度目だろうか
いつもより念入りに化粧をして
出かける女を見送った
ひどい環境ではあったけれど
俺も少しは大人になっていたのかもしれない
それなりに人がどんな顔をすれば
どんな会話をすれば喜ぶのかを知っていた
周りに同年代は少なかったが
処世術を教えてくれる大人には出会えていた]