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[旅行の思い出話を兄さんは少し意地悪い顔で聞いていた。
負けたの? ふぅんなどと静かに、でも愉しげに笑っている。
そのあとの観光地での一幕だとかを、
級友と一緒に撮った写真を見せびらかしながら語る。
次はそっちの番な、という俺に対して兄さんは曖昧に頷くだけだった。
ところで最近兄さんは映画を借りてこなくなった。
そっちが好きなものを自由に借りて来い、
とだけ言ってあとは何を聞いてもどこ吹く風。
困り果てながらレンタルビデオ屋に向かい
興味の湧いたタイトルを適当に腕の中に収めていく。
レジに向かって気が付いた。
あ、兄さんの好きなものって。
俺も好きだったんだ。好きになってた。]