「へ?」
何が起こったのかわかっていなさそうなダニーの背後で、帽子が壁に縫い留められている。あれは、イルムヒルトの針だ。
「無闇に撃ってはいけない、と言っただろう? もう忘れたのか?」
ぎぎ、と軋む音がしそうな動作で声の主の方を向いたダニーは、静かな怒りを発露するイルムヒルトと目が合った。
じり、とダニーが一歩下がれば、イルムヒルトが一歩距離を詰める。プレッシャーに耐え切れなくなったダニーが駆け出すが、数回瞬きした頃には取り押さえられていた。
「ちょ、絞まってる! 首絞まってるから……っ! ぐえっ」
「灸を据えるとも言ったはずだ」
イルムヒルトから逃れられる筈がないのに馬鹿だな、と呆れた目で見ているのは俺だけではない。調子に乗せたのは博徒共だろうに、助ける様子もなくゲラゲラと笑っている。
「酔っ払いというのはどうしようもないという」
「酒場だからな」
「酒場だからねえ……」
同時に言ったチェスティーノとユスターシュは顔を見合わせた。