港町が舞台なんだ。海の音が流れてれば雨音は気にならないだろ、あにき、と人懐こそうにも茶化しているようにも見える笑みを浮かべる。鏡写しのように似ているのに、目の細め方が違う、気がする。
そういうんじゃないんだよ。音が、どうとか。わかってるだろ。直接の原因は悪天候による気圧低下だと説明する暇もなく反対側から手が伸びてくる。肩先から脇、そのまま腰までを指先で辿られても眉一つ動かさず、わかってるだろ、にいさんと吐く息だけでかたどって、声にすることはない。その沈黙を埋めるようにスピーカーから寄せては漣の音が流れていた。