ー佐田春夜・神社敷地内にてー
[男と言い争っている間、冷静さを欠いていたのだと、今更気づいた。
彼女たちが来てくれて助かった。心底、そう思う。
何故護るべき存在を激昂させていたのか。
彼は心底他人を思いやれる優しい人間で、綺麗事が通用しないのだともっと早くに気づけばよかった。
何かをするときに犠牲が伴うと知っているのだろう。
他者を優先順位の上に置くから、必然的に自分が下になる。理由のない自己犠牲ではない。
それでも怒ってしまったのは、やはり嫉妬や憧れか。
どちらにせよ怪異らしい理由であることに違いはなく、そこに人間の都合は存在していない。
しかし彼は人間だった、故に怪異の理論は通用しない。
女は頭を冷やして、そのことを今一度頭に叩き込んだ。]