>>56
[男が参拝するのを、女は見守った。
女も参拝したかったが、腕がないのだから仕方ない。
澄んだ音が辺りに響き渡れば、一部の死者は現世の境界を越えられなくなり、わずか霧が薄くなっただろう。
それを確かめてから、女は言葉を紡ぐ。]
宵闇という男性は、通常の人間よりも怪異に好かれやすいのだろう。
彼がどこにいても、生きていれば私には分かる。
[そうして、女の意識は男の自己犠牲とも取れる言葉を受け取った。
女は無意識に、怒りを込めて男に語りかける。]
…以前も同じような言葉を聞いたな、自分はどうなってもいいから相手を助けたいと。
ふざけるのも大概にしろ。
棄てられる程度の命で助けられる命など大したものではない。
[女は吐き捨てるように続ける。]